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アート

【BBプラザ美術館 「堀尾貞治 あたりまえのこと 千点絵画」】思考を排除した表現のために圧倒的な量と早さを使った表現。

yukanee

今回は私のおすすめ展示会として兵庫県神戸市灘区の「BBプラザ美術館」で2023年10月17日から12月24日まで開催されている「あたりまえのこと 千点絵画」をご紹介。

ゆか姐
ゆか姐

アートもいいなぁと思っても、どこで何をやってるの?作者の名前を聞いたことあるけど、どんな絵かわからないとなんとなく行きにくい。そんな時に記事を参考にしてみてくださいね。

今の私にアートが足りない!!と、感動的な表現に触れたくて、関西の展示をあれこれ見ているうちに、こちらのポスターを見て「リーウファン展の時の写真にも似た感じがする。これは・・面白いのでは?」と、チェックして展示の説明文を読んで「絶対面白い!」と思って出かけました。

あたりまえのことというのは空気のこと。空気のように目に見えないけれどあることがあたりまえのこと。

それを表現する、可視化するということを生涯の創作テーマにすると決められ、様々な美術表現に挑み続けられた、堀尾貞治さん。私はこのかたのことも、空気という集団のことも、全く知らず(毎回そう・・)、「面白そう!」っていう感覚だけで、どの展示を見にいくか決めるのですが、

ちょうど去年の今頃、同じ灘区の兵庫県立美術館で開催されたリーウファンさんの展示を見て以来、現代美術に対しての苦手意識とか、「よくわからない勢いがすごそう」っていう、ちょっと威圧感を感じるようなイメージが一転し、「関係性を表現するってなに?」っていうところから、

「すごい!!ほんとに関係性って表現できるんだ!!」っていう驚きと、その表現の研ぎ澄まされた、余計なもののない表現みたいなものに魅せられて、「実体のないものを表現する」っていうことにすごく興味があるんです。(カウンセラーっていうのも少しそこに通じるものがあるのかも)

今回のこの、展示の説明がなかったら、きっと行くまでの行動に移したかもわからないくらい、「あたりまえのことを表現する」っていうことを見てみたくて行きました。

しかもここ、入場料がすっごく良心的。本当にこんなんでいいの??ってくらいで、逆に「すんごい小さくて作品数も少ない感じなのかしら・・」と心配になったものの、実際は全くそんなことなくて、母体が100年企業だったり、ビルもその事業の一環だからでは?と思います。

今回はそこまで大きい展示場ではないとはいえ、十分作品を堪能できたし、何より作品数もたくさん(200点以上)あるし、全体を見ても1枚ずつを見ても、すごくいい!!

入ってすぐのところはまだ私のエンジンがかかっておらず、写真を撮ってなかったのですが、小さな作品が密集していて、いわゆる現代アートっぽい感じ。でも見ていくうちに不思議と違和感を感じなくなるというか、馴染んでいく不思議さがありました。年表や活動のノートや、誰かにあてたメッセージ(絵手紙?)も展示されていて、情熱がすごい!

6歳の時に出会った美術の恩師と、叔父の影響で「一生美術をやっていく」と決めて恩師とは恩師の他界まで交流があったそう。

しかし中学卒業後から家計を助けるために就職し、定年まで勤め上げている。仕事しながら、年間60〜100の個展・グループ展・パフォーマンスを国内外でやり続けた。超人的すぎる圧倒的な量!!

制作を続ける中で「表現を捨てることが自己の表現」という考えに至り、制作に関しては思考を排除するため、量と早さ、そして実績件数を重ねること、現場芸術集団「空気」の仲間と共にパフォーマンスをすることを大切にしていたんだそうですが、それにしてもどれも「雑さ」がなくて、「威圧感」もなくて、絵の前にたっても色がどれほど鮮やかでも、表現が刺してくる感じが一切ないんですよね。(私の方の表現がどうなんだってのはあるのですが、それはほんと実際に見てご自身で体験してほしい。)

ただそこに在る

リーウファンさんの時もその関係性という表現の中に、自分を組み込んでくれているような、そんな感覚があるのですが、今回の堀尾さんの表現の中にもそういった他者を受け入れるような感性をすごく感じるんですよね。自己表現なんだけど、押し付けない自己表現がある。

私は展示やオブジェのようなものを見る時、ひと作品ごとに自分と対話するような、そしてその作品から得られる情報と対話するようなそんな感覚で作品を鑑賞しているのですが、堀尾さんの作品は全体を見てもうるさくないけど、1つ1つはしっかり発しているものがあって、でもどちらも心地よい。そんな感じなんです。

どれほど表現に一貫性がないように見えても、なんかまとまりがある。

今回、最初から最後まで私しか展示会場にいなかったので、たっぷりじっくりと作品を鑑賞させていただいたのですが、ふとあることに気がついたんです。

隣の作品と同じ色やつながりを感じるような気がするけど、あえてそういう並べ方にしているんだろうか?千点の中からどうやってこれらの展示を選んだんだろうか?

という疑問。

上の作品のように、明らかに作品同士が重なり合い、色をなしているものはこれくらいなのですが、それ以外にも同じような色やタッチがポンとつながりを表現しているようで、でも思考を入れないための表現方法をとっているのだから、これはどういうことなんだろう?って思ったんです。

そこで美術館の方にお話を聞くことに。すると、まさかの「学芸員さん、今日いらっしゃるから呼んできましょうか?」と言われ、「いいんですか?」とお願いしてしまいました。

たまたまいただいた、ありがたいご縁。美術関係者でもなければ、堀尾さんのファンでもなかった、今日初めて展示作品を見たような私にも学芸員さんの作家愛や作品の良さ、そして作家自身の素晴らしい人柄、そしてこの2016年の作品の偶然性をお聞きして、ますます「あ〜今日はなんていい展示に出会えたんだろう!!」って嬉しくなりました。

今でこそ、いろんな美術館がSNSへの投稿の効果を理解して、写真を撮ってもいいですよというスタンスをとっていますが、ほんの数年前まではやはり「勝手にネットに作品を上げられた!」と怒りを感じる作家さんたちも多かったそう。難しいところではありますよね。

でもこの堀尾さんは、当時から「動画も写真もOK」、そして今回会場写真を見てお分かりの通り、「これ以上中に入っての鑑賞はしないでくださいね」という線がないんです。

パフォーマンスもされていたり、ご存命の頃は展示中にそのパフォーマンスでできた作品を追加して展示内容が追加されることもしばしばあったようで、「お客さんが怪我をしないように」という意味でのラインはあったものの、現場感臨場感みたいなものも含めて表現をされていたご様子。

そして、いまだにコールタールが乾いていないような作品があったり(もう何年も経つんですけど、運ぶときに色が映らないように気をつけていて・・なんておっしゃってました。)、ものを大事にされる方だったらしく、知っている画商などが持ち込んだ誰かの作品の残りや絵の具なども、「大事に使われる方だったんです。」というお話が聞けて、作品の中の温かさはそのお人柄からあるのかなぁなんて思っていました。

学芸員の方にも「作品に威圧感がなくて、すごく見やすいし、ほんと素晴らしいですよね」って語彙力ゼロでお話しさせていただいたのですが、「そうなんです!軽さがあるんですよね!本当にご本人も絵を書くのが本当に楽しくて仕方ないって方だったので、ずーっと楽しんでやられてました。」とのことでした。いや、ほんと私の語彙力で色々汲んでくださって本当、ありがたかったです。

ただ、2016年当時でも70代。体力的にも集中力などにもやっぱり万全のタイミングというわけではなかったようですが、制作にあたり仲間の方々のサポートなどもあり、千点絵画が完成した話を聞くと、もどかしい気持ちなどもあったかもしれないけれど、それ以上に追求したい、やりたい!っていう気持ちがあったんだろうなぁという気がしたり。

画材はキャンバスではなく、廃材の看板なので、「これって某コーヒーチェーンの・・・」とか、「これは手術の写真・・?」とか、あれこれ下絵が気になる部分もあるのですが、それもものを大事にする精神と、速さゆえに剥がすのがなかなか追いつかず、元々画材が違っていれば、千点も6日ではなく5日で書き上げていたかもしれないほどだったらしく、そういったお話が聞けたのもまたよかったです。

並べ順については、1枚1枚仕上げるのではなく、同時に複数枚を仕上げ、そして垂らしの技法については立てかけての展示、上からインクを落とすものについては、同じように作品を下に置く形での展示、そして全体のバランス、時系列などから構成されたとのこと。

「どの作品も素晴らしい作家さんなので、本当に選べなくて・・」という学芸員さんの苦労がほんと「そうでしょうねぇ・・」ってしみじみしちゃいました。

忙しい中、すごく詳しくそして作家さんが「若い作家であっても、この作品はいい!って思ったら作品を交換したりして、いいもののためにリーダーとして堀尾さんがいるんだけど、対等に接しているんです。全てはいいものを作りたいっていうこの為にっていう、その考えを理解している方が堀尾さんの周りに集まって支えていた」っていうのを聞いて、ますます「また来たいなぁ」って感じました。

作家自身が人生に4回の鬱になりながらも制作を続けていたことで、研究の中に美術のみならず精神的な分野からの研究対象にもなっているらしく、なかなか貴重なお話が聞けました。

そして、「堪能しすぎたけど、まだあと3時間くらいいられる!」って思いながらも、会場を後にしてミュージアムショップを見たところ、トートバッグが。

今回の展示作品集を手に取りながらお話を聞いていて「トートバックってこれ、プリントですよね?」ってお聞きしたら、「いえ、以前の展示の際にこちらで堀尾さんが制作されたものです。」と言われ、驚きつつも1つ購入。

ナンバーも切らずに置いてもらいました。

こういう色の混ざり具合とかほんと見てるの好き。

使いたいような使いたくないようなところですが、まだ色付きのものも、ペイント部が黒一色のものもあったので、気になる方はぜひお手に取りながら、ご検討くださいね!

時間:10:00-17:00(入館は16:30まで)

拝観料:大人       400円
    大学生以下無料

休館日:月曜日

HP:https://bbpmuseum.jp/

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